東京都区部における用途地域による最低敷地面積規制の適用実態と課題に関する研究

東京都区部における用途地域による最低敷地面積規制の適用実態と課題に関する研究

Application and Issues of Minimum Lot Size Regulation by Zoning Area in the Wards of Tokyo


1.はじめに

1-1.敷地の細分化抑制を目的とした最低敷地面積規制

1960年代後半の高度成長期において、「ミニ開発」と称される細分化された敷地への狭小住宅の建設が顕著に増加し、市街地における日照や通風といった住環境の劣化をもたらした1)。1970年代には、ミニ開発の拡大と敷地の細分化に対処するため、宅地開発等指導要綱(以下、指導要綱)の制定を通じて敷地面積の最低限度の制限(以下、「最低敷地面積規制」)を適用する自治体が増えていく2)。最低敷地面積規制の主な目的は、敷地の細分化による日照や通風の低下による居住環境の悪化及び密集市街地の拡大・再生産の防止である。1980年には地区計画、1993年には用途地域別に最低敷地面積規制の適用が可能となる。2004年以降、東京都区部の多くの自治体は、用途地域による最低敷地面積規制を導入しており、その適用範囲は拡大傾向にある(図1)。その一方で、東京都区部における小規模宅地(100㎡未満)の所有者割合は依然として増加を続けている (図2)。

1-2.用途地域による規制の制定と適用に関する課題

用途地域による最低敷地面積規制の適用は特に慎重に行われるべきである。なぜなら、指導要綱による最低敷地面積規制は、ある一定規模以上の宅地開発に適用され、事前協議を含む柔軟な運用が可能であり5)、また、地区計画による規制は、既成市街地の実態に適切に応じた地区単位やスポット的な適用が可能6)である一方で、用途地域による最低敷地面積規制は、一律の規制が広範に及ぶため、既成市街地への影響が大きいとされる。具体的には、街区単位での既存不適格敷地の発生7)や、有効な土地利用が妨げられることによる地価の下落及び資産価値への影響8)などの「規制の適用」に関する様々な見解が存在する。
また、東京都区部では用途地域による最低敷地面積規制を導入する自治体が増加傾向にある一方で、その効果は数値として明確に現れていない(図2)。そのため、「規制の適用」に関する様々な見解を検証するとともに、各区の適用実態を十分に踏まえた上で、「規制の制定」に関する洞察を深める必要がある。しかし、東京都区部の用途地域による最低敷地面積規制の適用実態に関する既往研究は、一部の自治体を扱った個別事例に限定されており7)9)、適用実態を網羅的に把握することが困難な状況である。その意味で、東京都区部の用途地域による最低敷地面積規制の適用実態(規制の内容や範囲、その根拠等)を検証し、「規制の制定」に関する知見を得ることは有益と思われる。また、用途地域による規制に関する考察には、指導要綱および地区計画も含めた包括的な整理が必要である(詳細は1-4で後述)。

次に、用途地域による規制の内容や範囲、その根拠などを整理するとともに、指導要綱の影響を考察する。また、用途地域と地区計画による規制の関係性、及び、規制の適用による土地利用に関する懸念事項を整理する。以上を通じて、東京都区部の用途地域による最低敷地面積規制の適用実態を明らかにする。その上で、用途地域による最低敷地面積規制の制定と適用に関する課題、及び、課題への対応を示すことで、今後の用途地域による最低敷地面積規制の制定や適用、見直しの際の一助となることを目的とする。

1-4.既往研究のレビュー

用途地域による最低敷地面積規制に関する研究は、1970年代から2004年の都市計画・建築基準法の改正に至る頃までに充実した研究成果がある。その一方で、近年は関連する研究が少ない。本研究に関する既往研究として①特定の自治体における最低敷地面積規制の導入経緯や要因に焦点を当てた研究、②用途地域見直し時における東京都区部に関わる最低敷地面積規制の適用実態に関する研究、③最低敷地面積規制の変遷に関する研究が挙げられる。
まず、①においては、江戸川区7)9)及び横浜市10)11)を対象とした研究が挙げられる。江戸川区に関する研究7)では、2004年の用途地域の見直し時に最低敷地面積規制を導入した経緯や、敷地の狭小化に対する規制誘導手法としての指導要綱の運用実態を整理し、一律の規制値を適用する最低敷地面積規制の運用上の課題と方針を示している。横浜市に関する研究では、2004年の最低敷地面積規制の導入経緯の背景と内容に焦点を当てた研究10)や、住宅・土地統計調査を用いて戸建て住宅の敷地面積の変化を分析し、規制の直接効果を明らかにした研究11)挙げられる。

また、②においては、2004年用途地域見直しに関して、21区26市2町へのアンケート調査を実施し、各自治体の最低敷地面積規制の適用における自治体の事前調査や導入方法の概況を示している3)。
いずれの研究も2004年の用途地域見直し時期の最低敷地面積規制に関する研究である。東京都区部の自治体の適用内容を網羅的に整理・比較し、規制の適用内容の根拠を詳細に示した研究は管見の限り無い。本研究では、東京都区部の各自治体の適用内容を、文調調査及びヒアリング調査を通じて詳細に記述し、それらの根拠を示した上で、用途地域による規制の課題及び対応を示すこととする。

また、これらの研究によれば、用途地域による最低敷地面積規制の適用においては、指導要綱および地区計画を含めた包括的な考察が求められると言える。例えば、2004年の用途地域見直しに際して、東京都は、用途地域における最低敷地面積規制の指定とともに地区計画を適用する「地区計画の原則化」という条件を示している(3)。また、指導要綱の規制内容が、2004年時点の用途地域による規制に影響を与えていたことが推察される(4)。そこで、本研究では、用途地域に着目しつつも、指導要綱および地区計画も含めて調査を行い、それらの相互関係を考察する。
③においては、大正期から戦後にかけての戸建て住宅の敷地規模基準の変遷12)、1960年代から2000年代にかけてのミニ開発の進展13)、及び、1990年代の3階建て木造住宅に関する制度の変遷14) などが挙げられる。いずれの研究においても、各年代における敷地の細分化や狭小住宅の開発動向といった用途地域による最低敷地面積規制の導入背景を把握する上で重要な知見が示されている。本研究では、これらの内容を統合し、指導要綱と地区計画との相互関係を考察するとともに、2000年代以降の変遷を新たに整理することとする。

1-5.研究の方法

2章・3章では、「規制の制定」に関する事項(制度背景・規制内容の要因や根拠、指導要綱との関係など)、4章・5章では、「規制の適用」に関する事項(用途地域と地区計画の運用・規制の適用による懸念や緩和措置)を対象とする。
2章では、用途地域による最低敷地面積規制に関する制度の歴史的変遷を概観し、用途地域による規